霊園ガイド特集記事|六月書房

霊園ガイドNo.79<発行日:2012年9月15日>より再録

お墓を建てる意味

お墓参りをすると、なぜか心が落ち着きます。墓前に花を供え、故人を偲んで手を合わせる時、わたし達は自らの命と向き合い、生きていることに心から感謝することができるのです。
この本を手に取っておられる読者の方の中には、これから墓石の建立を考えておられる方も多いと思います。お墓を建てるという行為には、故人の成仏を願うという宗教的な理由に加え、心の拠り所を持ち、供養の気持ちを次の世代につないでいくという大きな意味があります。
今回の特集では、お墓を建てる意味と建墓をすることで得られるもの、そして建墓に失敗しないための霊園や石材店の選び方について解説します。

現在の我が国の火葬率は約99.7%。ほとんどの場合、人が死ぬと死亡届を受理した自治体の長の許可を得て遺体は火葬され、家族や親族の手元には故人の遺骨(火葬された後の遺骨を焼骨と呼ぶこともあります)が残ります。今でも一部の地域では土葬の習慣があったり、琉球地方の一部には洗骨葬(風葬を行なった後の死者の骨を海水などで洗う)という風習もありますが、ごく稀な例なのでここでは省きます。

遺骨の供養には、大きく分けて次の4通りの方法があります。

 ①お墓を建てて納骨する。もしくは先祖代々の墓に納める。
 ②寺院や霊園が管理する永代供養墓(合祀墓)や納骨堂に納める。
 ③海や山へ散骨する。(自然葬と呼ばれます)
 ④自宅に保管しお祀りする。

この中で最も多く行なわれるのは、もちろんお墓への納骨です。遺骨を自宅でお祀りするという場合も、一定期間(一周忌までの間など)を経た後に、お墓へ納骨するというケースが圧倒的に多くなっています。近年は核家族化や少子化の影響から永代供養墓へ入ることを希望したり、死後は自然に回帰するという考え方から自然葬を選択する方もいらっしゃいますが、全体の割合から見ればそれらはまだ少数です。特に、海洋葬・樹木葬といった葬送の方法には、心理的な抵抗を覚える方も多いようです。

現在公開中の映画『あなたへ』(監督:降旗康男)では、主人公が妻の遺骨を海へ散骨しに行く姿が描かれます。遺骨を持って亡き妻の故郷へ旅立とうとする主人公に対して、彼の上司は墓を建てることを勧め、霊園も紹介します。結局、主人公は遺言の通りに散骨を実行するのですが、上司は「俺は反対だ。墓がないなんて寂しいじゃないか」と、言い放ちます。墓を建てずに妻の遺骨を自然に還すことにこだわった男と、死後に祈りの対象として墓を建てることを望む者。このシーンでは親しい者を亡くした人々が抱く、心の葛藤が描かれています。

人が亡くなったからといってお墓を建てなければならないという法はありません。しかし、人は古来より死者のために墓を作り続けてきました。なぜ、わたし達はお墓を建てるのでしょうか。
それは、お墓が義務や慣習で作られるものではなく、故人への哀悼や追悼の心を表現するものとして建てられる、祈りの造形であるからです。故人を偲ぶために祈りの対象を求めるという、人としての自然な感情を具象化したものが墓なのです。

先ほどお話した映画では、主人公が妻の遺骨を海へ撒いたために、彼女のお墓は建てられません。しかし、いずれ彼自身が亡くなる時はどうでしょうか。彼はやはり妻と同じように散骨されることを望むでしょうか。これは記者の想像ですが、どのようなかたちであれ、彼らを慕う者達によって、お墓かそれに類する祈りの対象物が造られるのではないでしょうか。
なぜなら、それはわたし達にとっての本能とも呼べる行為だからです。

都立小平霊園内の樹林墓地先日、都立小平霊園内に都立霊園では初めてとなる「樹林墓地」が完成しました。東京都の説明によると、これは死後は安らかに自然に還りたいという都民の声に応えるかたちで計画がスタートしたもので、今年3月に整備が完了し、5月に都民向け現地案内会を開催、7月1日より募集が開始されました。

この樹林墓地はコブシ、ネムノキなど8本の樹木を植樹した墓域の土中に、直径1.5m×深さ2.1mの円筒形の容器(底はないので土が底部となる)を27基埋め込み、粉末状にした焼骨(これを粉状遺骨といいます)を専用の袋に納めて容器の内部に安置するという新しい形態の墓所で、1基で約400体の遺骨の埋葬が可能となっています。埋葬する際は容器の上部を開き、底に遺骨を敷き詰めてから土を入れ、さらにその上にも遺骨を並べてまた土を入れて、遺骨と土の層を作ってから蓋を閉じて、土を被せます。容器内では下層の遺骨を足下で踏みながら埋葬作業をすることになります。

使用料は遺骨1体が13万4千円(焼骨を粉末状にするための料金を含む)、粉状遺骨は1体4万4千円。一般の墓所とは異なり、ともに毎年の管理料は不要です。これは首都圏の他の合祀形式の墓所と比較しても安価であると言えるでしょう。墓所全体の面積は834m2。献花台は設置されていますが、埋葬者の名前の掲示はなく、樹林そのものが故人の墓碑となります。故人がどのポイントに埋葬されたのかを知りたい場合は、容器の埋設場所を管理事務所で確認して、墓域の周囲にある杭を目安に墓所の外側から手を合わせてお参りします。

この樹林墓地がある墓域のすぐ外側には鉄道の線路が通っていて、数分間隔で電車の通過音が響きます。安らかに眠る場所というイメージを抱いている方は、少し違和感を覚えるかもしれません。

小平霊園「樹林墓地」2012年申込み状況8月15日に締め切られた第1回目の募集では、募集人数500人に対して申込み数8,169人(抽選倍率16.3倍)、生前受付分325人に対して申込み数7,067人(同21.7倍)と、非常に多くの方からの応募がありました。霊園を管理する東京都としても、これは予想を上回る反響だったようで、来年度の募集からは受付人数の枠を広げることも検討しているということです。

本来、墓とは故人の成仏を願い、供養の心を次の世代へつないでいくためのものです。わたし達はお墓を建てることで心の拠り所を持ち、供養の精神をつなぐことで故人(先祖)や家族との絆を深めることができるのです。樹林墓地に応募された方の中には、本心から死後の自然への回帰を望んでおられる方もいらっしゃるかもしれませんが、その費用の安さに魅力を感じた方も多いのではないでしょうか。墓に納めることができない遺骨が手元にある、または自分自身の始末を付けるためなど、それぞれに事情はあるでしょうが、墓にお金を掛けたくないという考えが根底にあることが透けて見える気がします。

最近は一般的な霊園でも、1m2にも満たない0.7m2や0.56m2といった小さな墓所が真っ先に売れていく傾向がはっきりとしています。墓所が小さければ永代使用料も安いし、墓石の建立費用も低く抑えることができます。事実、直接お客様と接する石材店の営業マンからも、
「1.0m2と1.2m2では、建墓の総額が20万円ほどしか違わないのに、1.0m2の区画ばかりが売れる。1.2m2の方が間口が広く、立派な墓を建てることができるのだが……」

という嘆きの声をよく聞きます。

納骨者の名前が刻字された石板確かに経済的にある程度の余裕がなければ、お墓を建てることは難しいかもしれません。しかし、死者に対する供養の精神は誰もが心の奥底に持っているはずです。また、自らが死を迎えた後は、家族や親しい者に墓に参ってほしいと考えているはずです。

故人の名前の掲示もなく、僧侶による日常的な供養も行なわれず、遺骨を足下に踏み付けながら作業するという安易な埋葬方法が採用された、ある意味では処理場のような合祀墓への埋葬を希望される方が、これほど多数にのぼったという事実は、今日の時代を考えても衝撃的ですらあります。

先ほども述べたように、近年は核家族化や少子化の問題から、お墓の承継が以前に比べて困難な時代となっています。また、経済は一向に上向かず、雇用動向も改善されません。男女とも生涯を未婚のままで過ごす人の割合も増加しました。国の研究機関による推計では、1980年には20%に過ぎなかった単身世帯の割合は、18年後の2030年には40%になる見込みだとのことです。

大手生命保険会社が35歳から79歳までの男女600人を対象に行なったアンケート調査では、すでにお墓を持っていて子供がいるという方であっても、子供が結婚しないなどの理由から、半数以上の方が自分のお墓がいずれ無縁になると考えているとの結果が出ています。そのような世相を反映して、永代供養墓や樹林墓地など、合祀形式の墓所が支持を集めています。

しかし、人にはそれぞれその人が生きた人生の重みがあるはずです。合祀墓を選択することを否定するつもりはありませんが、納骨後に故人の名前も掲示されず、日常的な読経も行なわれない安易な埋葬方式では、いくら費用が安くても一人一人が持っているはずの人生の重みが軽んじられているとは考えられないでしょうか。最も大切なものであるはずの供養の心が忘れられているとは言えないでしょうか。わたし達が古来より死者のために墓を建てるのは、いつの時代も変わらず、誰もが心の内に死者に対する崇高な供養の精神を持っているからではないでしょうか。

昨年3月に発生した東日本大震災の被災地では、津波の被害を受けた墓地の復旧が思うように進まず、いまだに多くの墓石が倒れたり、流し去られたままの状態となっています。震災から二度目のお盆を迎えた今年、地面に横倒しになったままの石や、かつて自分の家の墓が建っていた墓所の前に立って、静かに手を合わせる人々の姿が、テレビや新聞で広く報道されました。震災の爪あとが残る墓地で墓を参る人々は、たとえそこに以前と同じかたちの墓石が無くとも、自分の家の墓があった地を心の拠り所として集い、手を合わせるのでしょう。そうして、故人の供養によってまた新たな力を得て、復興へ向けて歩を進めるのです。

冒頭でお墓は心の拠り所であると書きましたが、それはお墓を建てた当人のみに限ったことではなく、家族にとっても同様の意味を持ちます。親子や兄弟姉妹、あるいは祖父母との絆を強めることは、新たな勇気と活力を得ることにつながります。

また、お墓は家族同士の結び付きを深めるためにも重要な役割を果たします。お墓は建てたらそれで終わりというわけではありません。親から子へ、子から孫へと、代々受け継がれていくものです。春秋の彼岸やお盆、故人の命日などに墓参に集い、供養の心を捧げることは、故人(先祖)や家族との絆を深めることになります。故人を偲ぶことは自分の生命に感謝することにつながります。墓前で手を合わせ故人と語り合うことで、大切な人と過ごした日々を振り返るとともに、明日に向けたエネルギーを得ることができるのです。

それらのひとつひとつが、お墓を建てる意味であり、お墓を持つことでわたし達が得られるものなのです。

お墓が無縁化する可能性(複数回答)

お墓を建てようとする時、みなさまが最も気にされるのは、やはり建墓に要する費用のことでしょう。先祖代々のお墓があるという方以外は、新たに墓所を購入し、墓石を建立しなければなりません。すでにお墓をお持ちの方も、墓石が古くなったり傷みがひどくなったりした場合は、お墓の建て替えが必要になるでしょう。そして、それらには大きな出費が伴います。

地域別の墓石の平均購入価格墓石の業界団体が行なった最新のアンケート調査によると、墓石購入価格の全国平均は162万円。関東地方の1都3県(東京・千葉・埼玉・神奈川)に限れば、164万4千円となっています。こうした数字は墓所の大きさや墓石のデザイン、使用する石材によって変わりますが、お墓がたいへん高価な買い物であることは確かです。
(※なお、これは寺院や霊園の墓所に個別の墓石を建立した方が対象の調査であり、永代供養墓の永代使用料は含まれていません)

これだけ高価なものを購入するのですから、誰しも失敗はしたくないと考えるはずです。まして、現在の墓石業界では加工賃の安い中国で石材を加工してから日本へ輸入するという方法が一般的なので、万一お墓の出来上がりが気に入らなかったり、何か瑕疵があったりしても、すぐに建て直すということは難しいのです。では、建墓で失敗しないためにはどんなことに気をつけなければならないのでしょうか。

平成24年の全国墓石購入価格良い建墓を行なうためには、優良な石材店を選選ぶことが非常に重要です。お墓はほとんどの方が一生に一度しか購入しないものですから、商品知識を蓄積することができません。そのため、お墓に使用する石材の種類、墓石のデザインについて、または費用のことなど、お墓づくりに関するあらゆる面において、石材店から専門的なアドバイスを受けることになります。

その他にも、実際の施工工事はもちろん、納骨や一周忌などの法要の手配、墓石の建立後に瑕疵が発生した場合のアフターフォローなど、石材店は建墓にはなくてはならない存在です。最初に優良な石材店を選ぶことができれば、あなたの建墓は半ば成功したものであるとも言えるのです。

では、安心して建墓をまかせることのできる優良な石材店の条件とはなんでしょうか。ひと口に石材店と言っても、それぞれに業態も違えば、会社ごとの特色もあります。現在、全国に展開する企業から家族経営のところまで、規模の大小を合わせて一万店余りの石材店があると言われています。それほど多くの石材店の中からしっかりとした会社を選ぶための基本的な条件としては、以下のものが挙げられるでしょう。

 ○ 石材店として長年の歴史と実績がある。
 ○ 企業としての永続性を有している。
 ○ お墓に関する施主の要望をじっくり聞いて、できる限り相談に乗ってくれる。
 ○ 事前に見積書・完成図面・各種契約書を提示し、施主に検討の時間を与えてくれる。
 ○ 契約の締結や料金の支払いを急がせない。
 ○ お墓に使用する石材の産地・品質・価格などについて、詳しく説明してくれる。
 ○ 建立後のアフターサービスや保証について、契約書に明記されている。

その他にも細かい条件はいろいろとありますが、大まかなものとしてはこのようなところでしょう。もし、みなさまのお近くにお墓を建てた経験を持つ方がいれば、そうした人達から石材店の情報を得るのも、優良な石材店を選ぶための有効な手段となるに違いありません。


・改葬(お墓の引っ越し)

改葬の手続きの一般的な流れ建墓にはお墓を持たない方が新たにお墓を建てるということのほかに、すでにお墓を所有している方が、そこに安置されている遺骨を別の霊園や寺院に移すために墓石を建立する「改葬」と言われるものがあるます。改葬はお墓の引っ越しとも呼ばれ、改葬の件数は近年増加しています。

改葬が増える原因としては、故郷を離れて都市部に生活基盤を築いた人達が、先祖代々のお墓の維持管理が困難になり、自分達が入るためのお墓の建立に合わせて、先祖の遺骨を移すというケースが最も多くなっています。他には、故郷のお寺との関係維持が困難になったり、お布施を負担に感じたりしたために、寺院の墓地から宗教不問の民営霊園にお墓を移すという事例もあるようです。

改葬を行なうには、まずお墓(遺骨)を移転させる場所を決めて、その管理者から「受入証明書」を発行してもらいます。次に、遺骨が埋葬されている墓地の管理者から「埋葬証明書」の発行を受けます。その後、それらを持って移転元の墓地が所属する市区町村の役場に「改葬届」を提出し、「改葬許可証」を受け取ります。そして、移転元の墓地に改葬許可証を提出して遺骨を取り出し、移転先の墓地へと移します。右の図に手続きの流れを分かりやすく示しましたので、参考にしてください。ただし、自治体 によって多少の違いがあるので、注意が必要です。煩雑な手続きを全て代行してくれる石材店も多いので、改葬を検討しておられる方は信頼できる業者に相談されてみるのも良いでしょう。

改葬を行なうにあたっては、通常の建墓費用に加えて、古いお墓の閉眼法要と、新しいお墓の開眼法要のためのお布施が必要です。もし、古いお墓の墓石を継続して使用するのであれば、その運搬費が掛かります。ある大手石材店の担当者に話を聞いたところ、古いお墓の石塔をそのまま使用すれば墓石購入費を節減できると考えている施主の方がとても多いということですが、墓石の運搬には多額の費用を要するため、新しい墓石を購入する場合と比べて、ほとんどのケースで金額の多寡にそれほど差はないとい うことでした。

・期限付墓地

首都圏にある期限付墓地さまざまな事情で承継者がいなくても、ほとんどの方は自分のために(もしくは自分の家のために)建立されたお墓で、家族とともに眠りたいと考えておられるはずです。やむを得ない理由があって合祀墓を選択される方も、やはり心の内ではお墓を建立して命を終えたらそこへ入り、親族や友人にお参りをしてもらいたいと考えておられるのではないでしょうか。

現在は、以前であれば合祀墓を選択するしかなかった子供のいないご夫婦や、単身者の方であっても、ある程度の制約があることに納得できれば、家族を持つ方と同じように個別の墓石を建立することができる環境が少しずつ整っています。霊園によっては親族以外の人間(親しい友人、知人など)を承継者として認めてくれるところや、お墓の後継ぎがいないために期間を限定してお墓を建立することができる期限付き墓地(有期限墓地とも呼ばれます)が用意されています。神奈川県横浜市には、5年間の期限付きで墓所を使用できるサービスを展開している霊園がありますし、千葉県内のある霊園ではニューシステム墓として10年間の期限を設定して洋型墓石が付いた墓所(区画面積1.5m2)を販売しています。

こうした期限付き墓地では、使用期限を迎えたお墓に納められている遺骨は、園内に設置された供養塔に移され、永代に亘って供養される仕組みとなっています。定められた期限以上の使用を希望する場合は、事前にその分の使用料と管理料を支払うことで期限の延長が可能です。首都圏以外の地域に目を広げれば、20年や33年といった長い期間を設定して墓石を建立することができる霊園もあります。

・最後に……

今回はお墓を建てる意味と、建墓をすることで得られるものについて取り上げました。自分に関わる全ての人達との絆を大切にし、自らの生命に感謝する時、拠り所としてのお墓は欠かせないものであることが分かっていただけたのではないかと思います。墓石を建立して先祖や故人を供養することは、わたし達の心に平穏を与え、お墓参りは精神を浄化してくれます。それが生前の建墓であれば、自身のその後の時間を満ち足りたものにしてくれるはずです。

読者のみなさまの建墓がこころから満足できるものとなることを願ってやみません。


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